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2018年度メンバー会議

《日 時》
2018年4月26日(木)13:30〜17:00
《会 場》
経団連会館2階(東京都千代田区大手町1-3-2)
《テーマ》
「星空を見て考えた ~プラネタリウム・クリエーターが語るエネルギー~」
東京のような都市部では、夜空を見上げても星はあまり見えませんが、場所にも天候にも左右されず星空を楽しむことができるのがプラネタリウムです。子供の頃からプラネタリウムを作っていたという大平貴之氏(プラネタリウム・クリエーター/有限会社大平技研代表取締役)が、クリエーターとしてエネルギーに深く関心を持つようになったきっかけとは何か、プラネタリウムを使って目指そうとしていることなどについてお話を伺いました。

講演
1,000億個の星がある天の川銀河系

皆さんにはまず私が作ったプラネタリウム「MEGASTAR(メガスター)」で実際に星空をご覧いただきたいと思います。(場内が暗くなりMEGASTAR点灯)映し出された星の数は12.5等星まで1,000万個ほど。実際の夜空で見えるのは、都内で10〜20個、郊外の住宅地で300個、空気の澄んだ山奥でも6,000〜9,000個がせいぜいなので、その1,000倍の星を今映し出していることになります。しかし私たちの住んでいる銀河系にある星の数はおよそ1,000億個と言われておりますので、MEGASTARが映し出すのはその1万分の1に過ぎません。

今から400年ほど前、ガリレオ・ガリレイは自作の望遠鏡を使って、天の川が無数の暗い星々の集まりであることを発見しました。その後の天文学研究によって、天の川銀河には約1,000億個の星があり、銀河系は2兆個あり、その銀河系が集まって構成する宇宙さえも複数存在するかもしれないと言われています。想像を超える巨大な宇宙に対し、地球という小さな星で日々ささいなことに思い悩む私たちの存在と比較してみてください。

私は子供の頃にプラネタリウムを見て以来、宇宙に興味を持ち、小学4年生の時にピンホール式の装置を自分で作って上映会をしました。さらに大型のレンズ投影式装置を作ろうと6年生の時には設計図を描いて、レンズ会社からレンズを分けてもらい、途中まで作ったのですが、子供には絶対に無理と言われ断念しました。高校時代にはピンホール式の改良品を発表して話題になりましたが、この頃の私は他の科学技術にも興味があり、ジェットエンジンやロケットの製作も試みていました。空を飛ぶものは小型軽量化しなければいけないので、実験と失敗の積み重ねが、後のプラネタリウム製作に役立っています。


世界で初めて個人が制作したプラネタリウム

プラネタリウムは1923年にドイツで発明され第二次大戦後から世界中に普及しました。当時から使われてきたプラネタリウム投影機は大きなダンベルのような形をしていて、しかも高価なものでしたが、私が作ったプラネタリウムは形状が全く異なり、コンピュータで装置を制御するためコンパクトにすることができ、かつてのものと比べて安価になっています。現在では他のメーカーもMEGASTARと同じような形状の物を作り始めており、技術の進化の賜物だと思います。

プラネタリウム投影機の仕組みを簡単に説明すると、中心に電灯があり、多くのレンズを使って、分割した星空をつなぎ合わせて映し出します。大学に入った私は、これまで素人にプラネタリウム開発ができなかった理由を一つずつ検証し、その結果、可能性を見出すことができたのでチャレンジすることにしました。とはいえ、アルミの球体を作るためにも専門の工場に製作依頼せざるを得ず、高額な支払のためにアルバイトのお金をつぎ込みました。また、それ以上に星の原板は素人にはできないと言われたのですが、コンピュータの使い方を覚え、縦横の位置を決めて穴を開ける装置を苦心の末、自分で作ったのです。この「マイクロプロッター」の開発に成功したおかげで、現在のMEGASTARの原型とも言える「アストロライナー」を、1991年に日大生産工学部の学園祭で発表できました。世界で初めて個人が製作したプラネタリウムで星空を映した時、会場では驚きの声が上がり、専門誌でも紹介されました。

その後さらに進化させて、かつてのプラネタリウムでは9,000個しか映せなかったのに対して、小型軽量化した上に170万個もの星を映し出すことに成功しました。それが1998年に国際プラネタリウム協会(IPS)ロンドン大会で発表したMEGASTARです。たくさんの星を映し出すと、奥行きが感じられてより本物に近い星空に見えるのです。以降、日本でも多くの会場で自作のプラネタリウムを紹介する機会に恵まれ、宇宙の姿を見てもらう機会が増えていきました。狭い自室で地味な作業を重ねたおかげで、自分がこれまでかかわる機会のなかった音楽やエンターテインメントの世界にも触れるようになり、私の意識を変えていく大きなきっかけになったような気がします。また玩具メーカーと共同開発した家庭用プラネタリウム「ホームスター」は、これまでに世界で累計115万台も販売されて驚きましたが、その時、世の中には身近に星を眺めたい人がたくさんいるのだと知りました。さらに海外にも進出し、エストニアでは世界初の360°全天球プラネタリウムを作り、順調に進んでいました。


原子力発電所とプラネタリウム —— どちらも科学技術の成果なのに

ところが2011年3月11日に東日本大震災が起き、その翌日に福島第一原子力発電所で水素爆発事故が起きました。日本中、いや世界の人々にとって大きな衝撃でした。この事故は、科学技術がもたらす明るい未来に大きな疑問符を付けたと言えます。原子力に対する反対運動が起き、憎悪、怒り、不信が渦巻き、社会を混乱させ、分断しました。事故で拡散した放射性物質から逃れるなどの対応は必要だったにせよ、原子力産業、エネルギー産業に対して人々が怒りや不満を浴びせるのは、科学技術の進化に夢とロマンを抱き続け、エネルギーにも関心があった私にとって、衝撃的で悲しい出来事でした。

SNS上でも今まで仲良くやっていた人々がののしり合う姿を見て居たたまれない気持ちになり、何とかこの溝を埋める方法はないかと思いました。そして、規模も内容も違うけれど、自分の仕事と原子力の仕事を対比して考えてみました。なぜなら同じ科学技術の産物なのに、原子力は怖い、危険という印象で、一方プラネタリウムには夢があって綺麗という印象を持たれていたからです。プラネタリウムに反対する意見は聞いたことがないですよね。でも社会に対してどちらの方が貢献していると言えるでしょうか。プラネタリウムはなくても世の中は成立しますが、原子力が生み出す電力は生きていく上での必需品です。社会を支えてくれるインフラなのに、正しく評価されていないのではないか。社会への貢献度を無視したネガティブ、ポジティブの二項対立には、科学技術に携わる者として居心地の悪さを感じました。

日本の場合、広島・長崎の原爆被害があるので、放射性物質に対する恐怖感が高まるのも理解できますが、電力を支えている人たちが世間から強いバッシングを受けるのを見て、行き過ぎではないかと感じました。そしてさらに、その感覚を裏打ちする出来事がありました。電力会社の技術者の方と話をした時のことです。私が軽口で、「そんなに批判されるのなら、いっそ電気を止めたらいいじゃないですか」と言うと、彼は真顔で「電気は生命です。今この瞬間、手術を受けている人、人工心肺で治療を受けている人にとって、電気が一瞬でも止まったら大変なことでしょう。電気は社会の血液、生命なんです。それを止めるなんて絶対にできません。それが電気をつくる電力会社のDNAです」と答えたんですね。私はこの言葉を聞いて、事故を起こした責任はもちろんあるけれど、社会を豊かにするために努力してエネルギー供給をしている人たちの姿を、もう少し世の中に知ってもらうべきではないか、と思いました。そうした「思い」を伝えれば、社会の分断を和らげるのにも役立つのではないかと考えたのです。


宇宙を知り、地球文明を継続させる可能性を探る

技術者である私なら、放射能や原子力発電所の安全対策について理論的な解説を聞けば納得できますが、全ての人に科学技術のリテラシーがあるわけではありません。特にエネルギーのような高度な科学技術に精通している人はほとんどいない。だからこそ事故が起こると、どんなに理屈の通った説明でも拒絶されるわけです。放射能やエネルギー供給について、また代替エネルギーの難しさについて、いくら理路整然と説明しても、信用されない、受け入れられないのです。そうしたとき、エネルギーや原子力に関わっている人たちの気持ちや思い、つまり社会を豊かにしたい思いは同じだということを、もっと伝えてはどうか。妙案はまだありませんが、そういう「思い」を私も発信したいと思っています。

科学技術を発展させるとともに、その意義や価値を、科学技術に興味がない人も含めた社会とどう共有していくか。サイエンスカフェなどの試みは10年以上前からなされていますが、結局興味がある人しか集まらないので、科学技術者と社会とのコミュニケーションは今のところうまく行っているとは言えず、分断されたままであるように思えます。しかし、プラネタリウムならば、社会の多くの階層の人を集めることができる分、ポテンシャルがあるかもしれません。そしてまず、すべてのことに恩恵とリスクの両方があることを知ってほしいと思っています。例えばエネルギーの場合、再生可能エネルギーも含め、あらゆるエネルギーにメリットとデメリットがあります。太陽光発電はCO2を排出しないから自然に優しいと思われていますが、広い土地に太陽光パネルを敷くためには多くの草木を切り倒さなければならないのです。他の再生可能エネルギーにも必ず環境負荷があり、自然界の生態系とエネルギーはバランスを取る必要があるということを理解してほしい。

さらに宇宙という視点から、私たち人間がこれからどういう運命をたどるのか、考えを進めてみました。宇宙には地球のような、生命を擁する惑星がきっとどこかにあるはずと天文学者たちは地球外知的生命探査を続けているので、その努力がいつか実を結ぶかもしれません。私は宇宙人の発見が人類にとって非常に大切だと考えているのですが、それは地球上で起きている問題を他の星ならどのように解決しているのか知るチャンスだからです。近代文明の原動力であるエネルギー、それを支える化石燃料は、あと1,000年もたないでしょう。しかし、他の星では問題を乗り越えて、1,000年あるいはもっと長いスケールで文明が続いているかもしれません。文明がどのように生まれ進化を遂げたのか、私たちと何が同じでどこが違うのか調査して、地球にフィードバックして生かせれば、対話が生まれ争いのない社会が築けるかもしれないのです。

文明はエネルギーという血液がなければ維持できません。人類の進化の歴史において、様々な問題が起こってきたものの、病気から守られ寿命が延び、冷暖房が整った環境の中で飢えや渇きに悩まされることもほとんどなくなりました。エネルギーや科学技術の恩恵は計り知れないのに、いつの間にかそのことを忘れて、何か問題があると過敏に反応してしまう。そういう時に夜空を見上げて、地球に住んでいる仲間同士が仲良く話し合いができるようにならないか。プラネタリウムを使ってそんな提案をできたらいいと考えています。



大平貴之(おおひらたかゆき)氏 プロフィール

プラネタリウム・クリエーター/有限会社大平技研代表取締役
1970年、神奈川県出身。小学生の頃からプラネタリウムを作り始め、学生時代にアマチュアで初めてレンズ式プラネタリウム投影機の開発に成功。2004年、「MEGASTAR-Ⅱcosmos」がギネスワールドレコーズに。ネスカフェ・ゴールドブレンドのTVCMにも出演。家庭用プラネタリウム「HOMESTAR」は世界累計115万台超を販売。国内外へのMEGASTAR設置の他、イベントや異業種コラボなどでプラネタリウムの可能性を開拓している。著書『プラネタリウムを作りました。―7畳間で生まれた410万の星、そしてその後』[改訂版](エクスナレッジ/2010)、『プラネタリウム男』(講談社現代新書/2016)など。監修『大人の科学マガジン 新型ピンホール式プラネタリウム』(学研プラス/2013)、『ツイッター宇宙講座』(ブックマン社/2013)など。

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