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あすかエネルギーフォーラム

《日 時》
2018年5月11日(金)14:30〜16:00
《会 場》
ホテルグランドヒル市ヶ谷(東京都新宿区市谷本村町4−1)
《テーマ》
福島の今を考える
東京電力福島第一原子力発電所の事故以後、「福島」は日本のみならず世界から注目されるようになりました。現地から離れたところに住んでいる私たちは、福島についての情報をマスコミやネットから受け取る機会が多いと思います。でもそれらは実態を正しく伝えているのでしょうか —— 福島についての調査や考察を続けている開沼博氏(立命館大学衣笠総合研究機構准教授)にお話を伺いました。

講演
福島で起きているのは、将来の日本で起こりうる問題

初めての著書『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』は、震災前から執筆していましたが、福島で調査を始めた時に、外部で語られている話と現地で聞く話の差を意識するようになりました。例えば、「原発立地地域の住民の方が、皆、安全神話に騙されていたり原子力利権に振り回されている」といった物言いをする人がいるけれど、現地に行けば、原子力発電所ができる前の出稼ぎに頼らなければ立ち行かなかった地域の状況や、リスクとの複雑な共存の実態も見えてきます。外からは見えにくい内情を考慮しなければ、解決しない問題がある。それは、当時の研究も、いまでも同様に私が意識することです。

「福島学」とは著書のタイトルにも使いましたが(『はじめての福島学』)、3.11以後の課題を見つけて解決するサイクルを作っていく試みです。大規模なインタビュー調査や様々な統計データの分析を通した課題の
発見と様々な実践活動を通したその解決のサイクルを回していくことが福島学のやっていることです。2013年より今に至るまで、「福島エクスカーション」(視察会)を行っていて、最近は大学生、高校生を連れて被災地を案内することも多くなってきました。しかし福島問題には語りにくい3つの壁 —— 福島の話をしようとするとなんでも原発推進か否かという文脈に回収されそうになる「過剰な政治問題化」、専門的な難解な話ばかりになる「科学問題化」、ネガティブな文脈で繰り返し語られる「ステレオタイプ化&スティグマ(負の烙印)化」があります。この壁を崩すためには、正確なデータを提示するのみならず、わかりやすく噛み砕いて伝える作業が必要になってきます。

会場の皆さんに答えを記入していただいたシート「福島を知るための15問」に沿って話を進めていきます。

震災前に福島県で暮らしていた人のうち、いま県外に避難して暮らしている人の割合は1.7%です。ここまで低下したとはいうものの、その人たちの孤立感は深刻な問題です。しかしそれ以上に問題なのは、全国規模の意識調査をすると「県外避難者が24%はいる」と誤解されていること。つまり10倍以上のギャップがあります。実際は98、99%が福島に戻っているにもかかわらず、「故郷を追われた福島の人」という単純なイメージでくくられてしまっている。また、人口が震災前の水準にほぼ戻った中でも、いわき市、郡山市では人口増加により地価が高騰し、30万人程度の拠点に人口が集中している傾向が見られます。元岩手県知事で総務大臣も務めた増田寛也氏の著書『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』は、「日本全体で人口減少が進むと、今後20〜30年かけて地方の町が消滅していくであろう」という旨、書いています。地方では子供を産み育てる世代の女性が顕著に流出し、人口の自然増が望めなくなる。残された高齢者は住み慣れた地域の病院がなくなると、やむを得ず病院のある拠点に移住する。それに伴い介護事業者も移住し、やがて過疎地や限界集落を抱えている地域は消滅する。福島では、原発事故を契機にこういういずれ起こる変化を短期間のうちに経験せざるを得なくなりました。避難先で学校、総合病院、大型スーパーなどが揃った便利な暮らしに慣れてしまうと、その地に住み着く選択をする人がでてきています。 


農林水産物への誤解が生む価格低下の固定化

人口減少以外にも、福島で先行して起きている、日本の地方に共通した問題があります。たとえば農作物の価格低下です。福島県の米の生産高は47都道府県中、2010年は4位で、2011年は7位。ブランド人気がある新潟、北海道、秋田に次いで生産量が多かったことは意外と知られていないかもしれません。しかしその後、作付面積は、2011年の8万haから2016年には6.4万haと約2割減っています。日本の米生産が年々減少しているとはいえ、みんなが応援しているのに、なぜ作付面積が減少してしまうのか。原因は、棚を取られてしまったことにあります。つまり、原発事故後の一時期に福島米が消えたスーパーの棚には、代わりに他県の米がしのぎを削って入り込み、その結果、流通ルートを失った福島米は、中食・外食産業用あるいは飼料用作物として安価でしか売れなくなったからです。価格低下の固定化により、農業従事者は収入減に耐えられず離農し、作付面積も減ったというわけです。

福島県では年間1,000万袋ほど作られる県内産米の放射線について全量全袋検査を行っていますが、そのうち放射線量の法定基準値(1kgあたり100ベクレル)を超えたものは、2015年以降はゼロです。年間50〜60億円かけて行われる全量全袋検査は、アメリカやEUの基準と比較し12倍ほど厳格なモニタリングを徹底的に行っています。検査結果がゼロになった理由は、カリウム散布など放射性セシウムが作物に吸収されないよう抑制する有効な対策が見つかったからです。

しかし、モニタリングで基準値を下回っても問題が解決したとは言えません。人により受け止め方は様々です。消費者庁が2011年から10回以上にわたり行っている、放射線に関する意識調査では、「基準値以内であっても絶対受け入れられない」が平均して20%、「基準値以内であれば他の発がん要因と比べてもリスクは低いので受け入れられる」が35%、そして「放射性物質以外の要因でもがんは発生するからあまり気にしない」も20%近くいます。だからこそターゲットをきちんと分けてそれぞれの相手に届くようなアプローチや説明をするターゲティングが有効になってきます。また、バラエティに富んだ食材や料理のニーズが増えている現在、自前の作物をアピールする工夫は、全国の農家に共通して求められています。福島では、農家が放射性物質に対応するために安全性や信頼感を高める努力をしてきましたが、これを逆手にとって、ブランド価値を高める武器にしていく可能性もあるでしょう。

放射線の健康被害に関する調査結果

価格低下問題は漁業でも起こっています。2010年度に比べて2016年度の県内への水揚げ量は22%、県内の漁業経営体の水揚げ量は60.7%と大幅に低迷しており、価格も低下しています。しかし、魚の安全性は飛躍的に向上しています。福島沿岸から近いところでは試験操業が行われ、2011年には4割近くが基準値を超えていたものの、魚の世代交代が進んだ2015年以降は100ベクレルを超える魚はゼロで、安全性が確認された魚種が増加しています。一方、福島県の材木生産量は、2010年度に比べて2015年度は80%回復していますが、森林の立ち木の場合、山すべての除染は困難で、長期にわたるモニタリングが必要です。

産業別就業者数構成比も、福島が誤解を受けやすい項目です。実際は、福島では農林水産業の割合は10%、製造・工業が30%、残りの60%がサービス業になっています。サービス業の一つ、観光では、2010年度に比べ2016年度はおよそ90%回復しました。ただ、外国人観光客や修学旅行客の数はまだまだ十分に回復したとは言い難い現状があります。一方有効求人倍率等をみると、復興バブルが起こっている現状も見えます。


地域それぞれの事情に見合った再興への取り組みとは

福島で現在起きている、子供の肥満・体力不足、子を持つ親のうつ・虐待や、避難者の健康悪化による震災関連死といった問題については、総合的な子育て支援、高齢者のケアなどの対策が急務になっています。放射線影響ばかりを取り上げて危険を煽るセンセーショナリズムに惑わされず、適切なアジェンダセッティング(議題設定)、つまり何を議題として取り上げ報道するのかを見極めるべきでしょう。

避難指示を経験した自治体の中での地域差も顕著になっています。戻った人が8割、2〜3割、あるいはゼロと3つぐらいに分けられるでしょう。それぞれに抱えている問題が異なります。例えば8割近くが戻ったと言われている広野町の元住民は5,500人ほどでしたが、現在そこに暮らす人はそれより多い。廃炉作業などのために住み戸籍を移さない新たな住民が増えているわけです。地域づくりについては、「イノベーション・コースト構想」により、ロボットや廃炉などの世界最先端地域にする考えがあります。また地域の拠点として、アジア最大のサッカートレーニングセンター、Jヴィレッジが今年夏に再開するので、震災前のように各地から見学客が訪れる取り組みが必要です。さらに今後は、地場産業への波及効果も重要課題になってくるでしょう。

今後長期的に続くであろう大きな問題は、正確なデータや情報を元にした放射線影響の認識を持っていても納得できず、福島を避けるような感情が全国的に定着していることです。これをどのように払拭していけば良いのか。社会学では「システム信頼から人格的信頼へ」と表現しますが、行政や電力会社、マスコミの言うことは正しいと信じられてきた「システム信頼」が3.11で壊れたので、もっと原初的な、顔が見える、この人なら信じられる、美味しい食べ物だから信じられるという「人格的信頼」をどのように育てていくのかが今後の課題です。そしてまた、2011年から7年を経て、世界的に見て厳格な日本の放射線の基準が科学的に適切だったのかを検証すること。例えば避難指示を経験した地域では全量全袋検査を実施するけれど、他は抽出したサンプルによる検査に切り替えるといった、コスト、リスク、ベネフィットの観点から精査し、実施方法において世論がどこまで納得するのか着地点を検討する——今、こういった時期を迎えているのではないでしょうか。



開沼 博(かいぬま ひろし)氏プロフィール

立命館大学衣笠総合研究機構准教授
1984年福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専攻は社会学。東日本国際大学客員教授、福島大学客員研究員、楢葉町放射線健康管理委員会副委員長などを務める。著書に『福島第一原発廃炉図鑑』(太田出版、編著)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)、『漂白される社会』(ダイヤモンド社)など。第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞、第6回地域社会学会賞選考委員会特別賞、第36回エネルギーフォーラム賞優秀賞などを受賞。

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