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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 大洗研究所見学レポート【メンバー視察編】
実用化に向けて研究開発が進む次世代型原子炉 

エネルギーの多様性確保の観点や脱炭素社会の実現を背景に、国は次世代型原子炉の開発・建設を検討する方針を示しています。2023年10月5日、ETTメンバーは、国内はもとより国際的にも次世代炉研究の中核拠点として知られる国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構の大洗研究所(茨城県大洗町)を見学し、国が実用化を目指す2タイプの新型炉について学びを深めました。

安全性に優れ、950℃の熱を取り出せるHTTR(高温工学試験研究炉)

JR水戸駅からバスで約40分、国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構の大洗研究所に着きました。日本原子力研究開発機構=原子力を専門に扱う国の研究機関で、大洗地区には海沿いに広がる南北約2km×東西約1kmの広大な敷地に大小200を超える施設があり、日本唯一の「高温ガス炉」であるHTTR(高温工学試験研究炉:High Temperature Engineering Test Reactor)と、高速実験炉「常陽」という、全く異なる2つの新型炉の研究開発を続けています。日本では他の先進国と同様、「研究炉・実験炉」(発電設備なし)→「原型炉」(発電設備あり)→「実証炉」(安定運転や経済性の確認)→「実用炉・商用炉」と段階を踏んだ開発を行っているため、研究炉であるHTTRにも、実験炉である「常陽」にも発電設備はありません。メンバーは交流棟にて、「今年2月に閣議決定された「GX*実現に向けた基本方針」のもと、エネルギー安定供給の確保のため次世代革新炉の技術開発を進めていきたい」とお話を伺いました。その後2班に分かれて構内バスに乗り込み、最初にHTTR施設を見学しました(以下、A班の見学順)。
*グリーントランスフォーメーション:2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みを通じて経済社会システムを変革させ、持続可能な成長を目指す経営戦略。

まず、ロビーに展示されたパネルに沿って「高温ガス炉」について説明を受けました。原子力発電所の軽水炉が、原子炉から熱を取り出す冷却材に水を使って約300℃の熱を取り出すのに対し、「高温ガス炉」は熱に強いつくりで、ヘリウムガスを使って950℃の非常に高い熱を取り出せるので、発電のほか水素製造など「幅広く利用できる」特長があります。また、①ヘリウムガスは化学反応を起こさない不活性ガスなので水素爆発などを起こさない。②燃料の被膜に耐熱性の高いセラミックスを4重に使用し、1600℃でも放射性物質を閉じ込めることができる。③炉内の構造が熱に強い黒鉛製などの理由から、「安全性に優れている」と言えます。HTTRに用いる燃料は約1mmの粒状の「セラミックス被覆燃料」で、セラミックス被覆燃料を黒鉛素地に分散させた円柱形状の「燃料コンパクト」にし、黒鉛スリーブに入れて「燃料棒」とし、高さ580mmの六角状の黒鉛材の「燃料ブロック」の孔に約30本挿入して燃料体とし、150体装荷します。これらは実寸大の模型で確認できました。一方、HTTRの欠点としては、軽水炉が100万kW級に対し、高温ガス炉は黒鉛材の炉心体積が大きいため30万kW程度で「大型化に向かない」、燃料交換時などのヘリウムガス閉じ込め技術の必要性が挙げられ、デメリットを補う研究開発も進めているとのことでした。


■高温ガス炉とは 

(図)


国内では1969年から高温ガス炉の研究が開始され、1991年にHTTRを建設、1998年に初臨界、2004年に世界初の950℃運転を達成しました。2010年には30%出力での「原子炉を止める」(制御棒挿入なし)と「燃料を冷やす」(強制冷却なし)という機能を重ねて喪失しても原子炉が物理現象のみで自然冷却する安全性実証試験を完了し、福島第一原子力発電所の事故のような炉心溶融が起きないことが確認されました。東日本大震災後は新規制基準への対応のため運転停止し、2021年に再稼働しました。現在は高温ガス炉の技術基盤を確立するとともに、熱利用技術の研究開発や国際共同研究も進め、実用化に向けたデータを取得・蓄積しているところです。

HTTRは2023年4月から定期点検で運転停止中のため、概要説明後、特別に原子炉建家の中に入ることも許可されました。原子炉格納容器は地下にあり、高さ30mもあります。メンバーは黄色い防護服とヘルメットをかぶり靴を履き替え、階段をどんどん下って行きました。そしてエアロックと表示された二重の分厚い扉を通り抜けて原子炉格納容器の中に入りました。中央には中間熱交換器と表示された大きなタンク型の装置があり、外部に熱を取り出せるように2次ヘリウムに熱交換します。格納容器内に張り巡らされている配管は、高温に耐えられるように内側は耐熱、外側は耐圧の二重構造になっているそうです。格納容器内には今後新たに配管を設置し、熱を取り出して隣の水素製造施設に送り、2030年までにHTTRを熱源とした水素製造を目指す「HTTR-熱利用試験計画」を進めています。また、安全面ですが、大洗研究所は海抜36.5mの高台にあるため津波の影響を受けにくく、防潮堤をつくる必要もなかったとのことです。見学当日は運転停止中でしたが、メンバーが管理区域を出る際には放射線被ばく測定が行われ、放射線管理がしっかり行われていることも実感できました。

高温ガス炉の高温熱を用いてカーボンフリー水素を製造

次に、水素製造技術の研究開発施設を見学しました。高温ガス炉から取り出される約900℃の熱を用いることを想定し、ヨウ素(I)と硫黄(S)の化学反応を組み合わせ、水(H20)を熱分解して水素(H2)と酸素(0)を製造する「ISプロセス」など、CO2を排出しない「カーボンフリー水素製造技術」の検討が進められています。体育館のような施設内にはさまざまな装置が置かれていました。一番目を引いたのは連続水素製造試験装置(高さ約8m×幅約18m×奥行約5m)で、ISプロセスの化学反応 (水素を生成するHI分解反応や酸素を生成する硫酸分解反応) を起こすことができ、2019年には連続150時間の水素製造に成功したとのことです。


■カーボンフリー水素製造技術 

(図)

原子燃料サイクルの確立を目指す高速実験炉「常陽」

最後に高速実験炉「常陽」施設を訪れ、見学者用ロビーに設置されたさまざまなパネルや模型などを見ながら説明を受けました。「常陽」は、原子力発電所で一度使ったウラン燃料(使用済燃料)をリサイクルしたMOX燃料*を用いた、日本初で世界的にも貴重な高速増殖炉の実験炉です。高速炉では高速の中性子を使うことで、軽水炉に比べてウラン資源の利用効率を高めることができます。さらに増殖炉として使用すれば、核分裂しにくい「ウラン238」を「プルトニウム239」に変え、発電しながら消費燃料以上のプルトニウムを生み出す(増殖する)ことができます。資源の乏しい日本にとって、原子燃料サイクルによるウラン資源の有効活用は長期にわたる安定的なエネルギー確保につながるため、高速炉の実現に向けて開発を継続する必要があります。
* MOX(モックス)燃料:使用済燃料を再処理して取り出した少量のプルトニウムと、ウランを混ぜた、ウラン・プルトニウム混合酸化物。

原子力発電所の軽水炉は冷却材に水を使い、原子炉で発生する熱を水で取り出し(冷やし)ますが、高速炉は冷却材に液体金属(ナトリウム)を使います。実験炉である「常陽」ではナトリウムで取り出した熱を送風機で大気へ放出します(空冷)。液体金属は水と違って中性子を減速しないで熱を取り出しやすいことと、ナトリウムは沸点が大気圧で約880℃と高く、高温で運転できるため効率的に熱を取り出せる特長があります。また、沸騰を防ぐため高圧にする必要がなく、大気圧で運転できるため構造を薄くできる特長もあります。一方でナトリウムは扱いが難しく、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」がナトリウム漏洩事故を起こしたように、空気に触れると発火する性質があります。「常陽」では万が一ナトリウムが漏れても外の空気に触れないよう、配管を二重にするなどさまざまな安全対策や万が一の対応として消火訓練を実施しているとのことです。

見学者用ロビーの中央には「常陽」の実際の配管を示した大きな模型が置かれ、ナトリウムを流す配管などが縦横無尽に駆け巡り、複雑なジャングルジムのようになっている様子に、研究開発の大変さが感じられました。また、炉心の実寸大の模型では、炉心が燃料の金属棒をぎっしり詰めた六角形の筒の固まりになっていることがわかりました。その燃料の間にナトリウムが流入して冷やすのだそうです。

「常陽」は1977年初臨界後、運転を続けていましたが、2007年に装置トラブルで停止しました。その後、新規制基準の対応に取り組み、2023年7月に原子炉設置変更許可を得ました。これから3年後の運転再開を目指しています。今後は各国とも協力しながら安全確保のルールづくりを進め、がんの検査・治療に使う医療用ラジオアイソトープの製造についても研究開発を進める計画です。見学当日は定期事業者検査中のため運転停止していましたが、最後に中央制御室を模擬したシミュレータ室を見学し、地震・停電の際のシミュレーションも見せていただきました。今回は見学中にメンバーから質問も多く出て、次世代型原子炉への関心の高さを伺わせました。安全面に配慮しながら最先端の研究開発が着々と進んでいる様子を認識できた、貴重な一日となりました。

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