世界中で進められている脱炭素に向けた取り組みと課題、ロシア・ウクライナ戦争が引き起こしたエネルギー安全保障の危機など、難しい状況の中で日本はどのようにエネルギー政策を展開していくのか? これまでCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)に16回参加された有馬純氏(東京大学公共政策大学院特任教授)による講演と質疑応答が行われました。
簡単に復習すると、パリ協定(2015年)は2つの性格を持っています。1つは、産業革命以降の温度上昇を1.5〜2℃以内に抑えるため、今世紀後半のできるだけ早い時期に世界全体でカーボンニュートラル(以下、CN)を達成する「世界全体の目標」を設定していること、もう1つは「各国の行動」として、国情に合わせて温室効果ガス削減・抑制目標を自主的に設定していることです。京都議定書(1997年)では先進国だけが国際交渉で数値目標を設定し、達成できないとある種の罰則を受ける規定になっていましたが、パリ協定は全ての国が自主的に目標を設定し、地球全体の目標と各国の進捗状況を比べてレビューを受け、各国の目標改訂に反映させる「グローバル・ストックテイク」を2023年から5年ごとに行う設計にしています。これで各国は定期的に目標を見直すとともに、2050年を目指した長期戦略を策定します。
2020年はコロナで足踏みしましたが、2021年は欧米が中心となって温暖化外交をしました。イギリスのグラスゴーで開催されたCOP26(2021年)では「グラスゴー気候合意」が策定され、「産業革命以降の温度上昇を1.5℃に抑制」との野心的な努力目標が示されました。そのためには「2030年の全世界のCO2排出を2010年比45%削減、2050年に世界全体でネットゼロ*」にしなければなりません。しかし現状の各国目標では「2030年に2010年比13.7%増」になってしまうため、2030年までは「勝負の10年」として各国の野心レベルを引き上げてCOP27(2022年)で合意する宿題が課されました。さらに「削減を講じていない石炭火力の段階的削減と非効率な化石燃料補助金のフェーズアウトの加速」も初めて盛り込まれました。COP26は「1.5℃目標」を全面に出した結果、「トップダウンの地球全体の温度目標」と「ボトムアップの自主的目標設定」というパリ協定の微妙なバランスを変質させ、トップダウンに傾斜したと言えます。「1.5℃目標、2050年CN」を目指すということは、今後のCO2排出量にキャップをかけることと同等であり、CO2排出量を巡って先進国と途上国の対立は激化し、途上国が先進国に2050年以前のCN達成と支援強化を要求することは容易に想像できました。石炭についてもインドの抵抗によってフェーズアウト→フェイズダウンにトーンダウンしましたが、欧州諸国や島しょ国からは「化石燃料全体をフェーズアウトへ」という議論もあり、将来にさまざまな課題を残すCOP26となりました。
*温室効果ガスの排出量を正味(=ネット)ゼロにすること。
グラスゴー気候合意の「1.5℃目標→2030年45%削減」は、私は達成不可能と思っています。2020年のエネルギー源のCO2排出量はコロナによって世界経済が大きく沈み、前年比で5.8%減りましたが、「2030年45%削減」を達成するためには2022年から毎年7.3%減らしていかないと達成できません。しかし2021年はリバウンドしてCO2排出量の過去最高を更新、2022年はさらに増加し、2023年も増えるでしょうし、中国やインドを含む途上国が「経済成長よりも排出削減」と心を入れ替えない限り無理です。国連による市民への大規模アンケート調査「MY WORLD 2030」のSDGsのプライオリティでは、スウェーデンでは「気候変動」の優先順位が17のSDGs中1位であるのに対し、日本は3位、人口の多いインドネシアは9位、世界最大の排出国である中国は15位でした。1人当たりのGDPが低い国は貧困や飢餓の撲滅など、温暖化防止以外にやらなければならない課題が多くあり、「1.5℃目標→2030年45%削減」のカギを握っているのはそういった途上国なので、この目標は非常に危ういと感じるわけです。
我々は今、エネルギー危機の渦中にいます。2022年2月に勃発したロシア・ウクライナ戦争によってエネルギー危機が生じたというのは正しい理解ではなく、2021年位から化石燃料の価格はじりじり上がる状況が続いていました。根源的な理由は、原油価格が2014年から低下し、石油ガス上流投資(新規に石油・ガス田を開発する投資)が低迷したことです。世界の化石燃料需要が今後も増える見通しの元に毎年増えていた上流投資が2015年から落ち込み、2020年のコロナ禍で需要が大幅に落ち込んだことが拍車をかけ、上流投資は一時の半分以下に減りました。そのため2021年以降、世界の経済回復に供給が追いつかず化石燃料価格が大幅に上がり、さらにロシア・ウクライナ戦争によるロシアからの化石燃料の供給不安が拍車をかけました。通常は化石燃料が上昇すると先高感を考えて石油・ガス田の開発に大きく投資しますが、ここ数年、「2050年CNのため化石燃料に投資してはいけない」という議論が強まり、IEA(国際エネルギー機関)も「2050年カーボンニュートラルが実現するならば新規の石油・ガス田投資は不要」との分析を発表するなど、投資が非常にやりにくくなりました。それは結局、エネルギー需給ひっ迫を長期化させ、途上国が一番困る事態になります。「2050年CN」を大前提に逆算して議論するCOPと現実とのかい離が、ここ数年私が強く感じている状況変化です。
今回のエネルギー危機がこれまでと違うのは、エネルギー大国ロシアが一方の当事国になっていることです。ロシアは世界の<埋蔵量>石油6%(6位)、ガス20%(2位)、<生産>石油12%(3位)、ガス17%(2位)、<輸出>石油11%、ガス25%など、世界の化石燃料において大きな位置を占めています。一方的に他国に対して侵略をしたので制裁対象になるわけですが、ロシアは安保理の常任理事国なので国連軍を差し向けるなどはできず、G7による対応となります。ところがG7の中でも国によって「対ロシアエネルギー依存」の状況は大きく異なります。アメリカやカナダのように資源に恵まれる国はロシアに依存することなく、むしろエネルギー輸出国です。イギリスのように国家油田・ガス田を持つ国はロシアへの依存度が低くなりますが、経済力が最も高いドイツはロシア・ウクライナ戦争勃発時、輸入量でロシアへの依存度が石油・天然ガス・石炭ともに1位、イタリアも石炭・天然ガスともに1位でした。日本はシェアで言うと天然ガスのロシア依存度は5位、石炭3位、石油5位で、ロシアは中東依存を下げるためのエネルギー供給先の多様化の対象であり、サハリン(石油・天然ガス開発事業)を通じたLNGの輸入は日本のエネルギー安全保障を強化すると考えられていたため、脱ロシアをどう図るか難しい課題を突き付けられました。ロシアからLNGの輸入が完全に途絶えると、高騰したLNGをスポット価格で調達しなくてはならず、電力料金をさらに大きく上げる結果になるので簡単にやめるわけにはいきません。ヨーロッパも「脱ロシアエネルギー依存」、さらには「脱化石燃料」を段階的に進めるとしていますが、まだロシアから天然ガスは供給されています。西側諸国の対ロシア制裁はアメリカが主導する形で「ロシアからの化石燃料を全面的に輸入停止」といち早く打ち出してイギリスも同調していますが、資源のない日本やヨーロッパ諸国はまず石炭輸入、次に石油輸入をやめようと段階を踏む形をとっています。ちなみに「ロシアからのガス輸入禁止」という制裁は、まだG7では発動されていません。
ロシア・ウクライナ戦争以降、資源価格は大幅に上昇しました(グラフ参照)。「米国天然ガス」はアメリカ自身がガス生産国なのでほとんど影響を受けていません。「日本向けLNG」も長期契約に基づき調達していたことが吉と出て、「欧州向け天然ガス」のスポット価格のように激しい上昇はしませんでした。ヨーロッパがロシアに大きく依存していたのは天然ガスです。ドイツに至ってはノルドストリームというバルト海底のパイプラインでロシアから直接天然ガスを運び、2本目もいつでも稼働できる状態にありました。冷戦期間中もソ連は旧西ドイツに対してパイプラインでガスを供給し、政治的に対立していても経済的には相互依存関係がありましたが、今回の戦争で裏切られ、ドイツは非常に困っている状態にあります。
ヨーロッパは今、ロシアガス依存脱却のため世界中から調達できるLNGに殺到し、各地でLNGの受け入れターミナルをつくっています。LNG市場に急に参入し始めたので影響は世界におよび、LNGの需給ひっ迫が懸念されています。アジアはパイプライン網を持っていないためLNGで天然ガスを調達していますが、その天然ガスの価格がヨーロッパ参入により大きく上がってしまうと「石炭から天然ガスに転換してCO2を減らそう」としていた目処が立たず、「石炭火力をより長く使おう」となり、事実、バングラデシュやパキスタンは「天然ガス調達を諦める」と言っています。こういう状況下ではガスのサプライチェーン全体に新たな投資が必要になりますが、そこに立ちふさがるのが「1.5℃目標、2050年CN」です。「世界が2050年に脱炭素化するのであれば新たな天然ガスの投資は無駄になる」という議論は化石燃料の需給ひっ迫をより長期化させ、途上国を苦しめ、石炭から天然ガスへの移行も阻害することになります。日本は「脱炭素化に向けてのトランジションとして天然ガスにもっと投資が必要」と、G7やG20で一貫して主張してきました。ただヨーロッパは環境原理主義に毒されていると言うべきか、「世界レベルでの新たな天然ガス田の開発などへの投資はCNに逆行する」と反対しています。一方、「自分たちが天然ガスを調達するためのターミナルはロシアへの依存度を下げるために必要」とダブルスタンダード的な議論をしており、途上国がフラストレーションを溜めないかと懸念しています。
ロシア・ウクライナ戦争の4カ月後にドイツで開催されたG7エルマウ・サミット(2022年)では、エネルギー安全保障に重点を置くかと思いきや、相変わらず温暖化防止が前面に出る形となりました。「1.5℃抑制のため2030年までに2019年比43%削減。2030年のNDC(国別削減目標)が1.5℃目標と整合していない全ての国に野心レベルの引き上げ」を要求した合意文書は、明らかに中国・インドに迫ったものです。また、「2035年までに電力部門の脱炭素化と、石炭火力発電のフェーズアウト加速に向けた取り組み」を求めた一方で、「ロシアへのエネルギー依存脱却のためLNGの供給増加は重要」と例外も認めました。世界のエネルギー需要やCO2排出量に占めるシェアはG7ではすでに4分の1程度になっている一方、G20では8割近くありますが、両者のメッセージには温度差があります。ロシア制裁でもG7は歩調を1つにしていますが、G20の中国やインドはヨーロッパ向けの行き場を失ったロシアの石油・天然ガスが安く買えると調達に関心を持っています。「1.5℃目標」に対する温度差も存在し、G7の独り相撲になっているところがあります。
1970年代のエネルギー危機よりも現況は深刻かつ複雑です。当時は石油安定供給だけが課題で、温暖化というアジェンダがなかったので原子力・石炭も活用できましたし、ソ連は安定的に天然ガスを供給し、中国はプレーヤーですらありませんでした。今や中国は世界最大のエネルギー輸入・消費国として制裁対象のロシアと手を握っています。ロシア・ウクライナ戦争は地球温暖化の課題にどう影響を与えたのでしょうか。「化石燃料に依存しているリスクが顕在化したので、より一層省エネと脱化石燃料を進め、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を最大限導入すべき」というのがヨーロッパ的な議論です。ただ現実を見ると、電気価格の高騰により肥料・食品価格も上がり、世界経済がリスクに晒され、エネルギーを輸入に依存している国は「エネルギーを安定的かつ低価格で供給すること」が一番の課題になっています。温暖化が国際的に注目されてきたのは1990年以降の冷戦終了後で、「これから世界はグローバルな課題に一緒に邁進していこう」としていたのが、ロシア・ウクライナ戦争によって世界は再び新冷戦、「分断化された世界」に戻りつつあるのだろうと思います。例えばウガンダ-タンザニア間で石油パイプラインをつくるプロジェクトには「脱炭素に逆行する」と欧州議会から非難決議が出されましたが、途上国からすると「今の温暖化問題は先進国が化石燃料を湯水のように使って豊かな国になった結果なのに、途上国が豊かになろうとすると温暖化防止のために化石燃料を使うなと言うのはダブルスタンダードではないか」となるわけで、以前からあった民主国家VS覇権主義国家、グローバルノースVSグローバルサウスの対立がより深刻化してしまいました。他方、中国は温暖化防止という名の元に先進国に太陽光パネルや電気自動車などを売りまくり、途上国には石炭火力を輸出して漁夫の利を得てきました。経済力と化石燃料の調達能力を強め、さらに中東諸国にも影響を強めています。先進国がグローバルサウスに対して脱炭素原理主義を押し付けると、中国の影響力を強める可能性もあるのではないか。温暖化問題には全体的、地政学的な視点が必要です。
去年開かれたCOP27(2022年)は一言で言うと、途上国のリベンジでした。最大の成果は、温暖化による損失と損害を補填する「ロス&ダメージ基金(仮称)」新設の合意ができたことです。先進国は気温上昇を抑える緩和作業計画を中国・インドなどに対して目標引き上げのプレッシャーに活用したかったのですが目論見は失敗し、「2050年CN1.5℃」を唱える先進国に対して途上国から2030年CN達成と大幅な資金援助を要求され、その一環として基金が設立されたのです。最近のメディアは「異常気象は全て温暖化の影響」と伝え、先進国的に言えば「だから今すぐ排出削減を」となりますが、途上国的に解釈すると「途上国で起きている洪水も全部温暖化のせいだから、先進国はロス&ダメージ基金で責任を負うべき」となります。ただ、先進国の途上国への資金援助の目標:年間1000億ドルですら未だ達成できておらず、「財布」はできてもお金が入らない可能性は十分にあります。極めて野心的な目標を出したCOPプロセスの持続可能性について注視していきたいと思っているところです。
今、日本は2種類のエネルギー危機に直面しています。1つは「エネルギー価格の高騰」で、日本は化石燃料を海外に依存しているのでコントロールがおよばざるところですが、もう1つの「電力需給ひっ迫」は電力市場自由化の制度設計など、自ら引き起こした側面が大きいと思います。これまで「発送電一貫」体制でやってきた電力会社を競争環境に置き、再生可能エネルギー(以下、再エネ)をFIT(固定価格買取制度)で保護して大量導入し、出力変動の皺寄せは火力発電に負わせ、さらに原子力の再稼働も進まないとなると電力需給がひっ迫しても不思議ではありません。
日本は「2050年CN」と菅総理が出した長期目標から逆算し、温室効果ガス排出削減目標を「2030年46%削減」と大幅に引き上げました。これは現在の排出量と、2050年の実質ゼロを直線で結んだいい加減な目標設定で、2015年に出した目標「26%削減」のような「エネルギーセキュリティ(自給率)、経済効率(電力コスト)、環境保全(他国に損色ない目標)のバランス」という視点が欠落しています。「2030年46%削減」実現のためには、日本のような資源のない国は原子力を最大限再稼働していく以外選択肢はないと思います。
世界を見渡すと、アメリカのバイデン政権は再エネ・原子力・CCS(二酸化炭素回収・貯留)も含め、技術中立的にCNを追求しています。ヨーロッパでもウクライナ戦争を機にフランス・イギリス・オランダ・ポーランドなどで原発新規計画が進み、ベルギーは脱原発を10年先延ばしするなど原子力回帰の動きが生じ、再エネ推進に変わりませんが、エネルギー安全保障を考えた時に原子力のような巨大な脱炭素電源というオプションは使っていくべきとしています。ヨーロッパで原子力が条件付きで「グリーン投資(EUタクソノミー)」に盛り込まれたのも、そういった動きを反映したからでしょう。日本は資源を有さず、他国と送電網で接続されておらず、再エネ資源にもハンディがあり、安全保障上、格段に不利です。「エネルギー安全保障と温暖化防対策を両立」するのであれば、先人たちが培ってきた原子力技術を使わないのは全く不合理であると思います。特に「再エネで原発を代替」する議論は、化石燃料の輸入節約やCO2 の排出削減にも何ら貢献せず、電力料金が上がるだけで評価できません。福島第一原子力発電所の事故以降、日本のエネルギーに関する議論をむしばんできたのは「再エネか原子力か」という二者択一ですが、日本にとって大事なのは「再エネも原子力も」で、IEAも双方のシェア拡大を想定しています。
岸田総理が昨年開催したGX実行会議(2022年7月27日)で「エネルギー安定供給の確保を大前提とした取り組み」という議論の柱が立ち、再エネと並んで「原子力の活用」が明確に位置付けられた意義は大きかったと思います。脱炭素を進める中で「成長志向型カーボンプライシング*構想」も、もう1つの大きな柱になっています。今後10年間に150兆円の官民GX投資を、20兆円規模のGX経済移行債(仮称)によって先行投資支援し、償還財源として段階的にカーボンプライシングを導入します。「原子力の活用」では「次世代革新炉の建て替えを具体化」、「厳格な安全審査を前提に40年+20年の運転期間制限を設けた上で、一定の停止期間に限り追加的な延長を認める」とされ、安全審査などによる停止期間を算入せずに原子力がより長く使えるよう言及されました。その実現のため電気事業法など一連の法律改正を束ねるGX脱炭素電源法が今国会で議論されていますが、次世代革新炉の建て替えについての議論はこれからになります。脱炭素への取り組みは2050年より長くかかるでしょう。今ある原発を長く使うだけではなく、より進んだ技術に置き換えていくことも必要だと考えます。
*炭素に価格を付け、排出者の行動を変容させる政策手法。
G7札幌 気候・エネルギー・環境エネルギー大臣会合(2023年4月15日〜16日)では、日本の交渉団はよく頑張ったと思います。天然ガスはフェーズアウトではなく、「途上国への配慮と将来のガス不足を引き起こさないようにするためガス分野への投資の必要性」を明記したことが大きな成果でした。原子力についても「原子力の利用国は既設炉の最大限活用、革新炉の開発・建設、強固な原子力サプライチェーンの構築、技術・人材の維持・強化などにコミット」という前向きな文言が入るなど、エネルギー面では日本ならではの現実的なメッセージが入りましたが、温暖化の面では2025年全球ピークアウト、2035年60%減など、相変わらず野心的な数字が並ぶことになりました。G7で目標をさらに引き上げ、コストが上がってG7の競争力は弱まるでしょう。脱炭素経済圏と、中国・インドのように脱炭素にコミットしない国の経済圏、傷つくのはどちらになるでしょうか。 皆様方にぜひ議論していただければ幸いです。
Q:パリ協定では各国ごとに目標設定されたが、なぜ地球防衛軍のように一致団結して世界全体で発生源の高いものから攻めていこうとしないのか?
A:世界政府=国連が世界全体の炭素予算を集計管理して途上国に再配分すればよいという議論もあるが、国連交渉に長く携わった経験から申し上げると、何年経ってもコンセンサスは得られないと思う。各国がボトムアップで目標設定するのが現実的と見ている。
Q:ウクライナ戦争はもっと早く終わると思っていたが、どう考えていらっしゃるか?
A:私は軍事的な知見はないが、着地点を見つけるのは難しく、ロシアに詳しいエキスパート達も「泥沼化、長期化する可能性が高い」と言っている。フィンランドとスウェーデンがNATO加入を決めたのは、隣国ロシアに対する脅威が我々より大きかったからだろう。逆に、我々が感じている中国に対する脅威をヨーロッパ人はあまり感じていないということだと思う。
東京大学公共政策大学院特任教授
1982年東京大学経済学部卒、同年通商産業省(現経済産業省)入省。経済協力開発機構(OECD)日本政府代表部参事官、国際エネルギー機関(IEA)国別審査課長、資源エネルギー庁国際課長、同参事官等を経て2008~11年、大臣官房審議官地球環境問題担当。11~15年、日本貿易振興機構(JETRO)ロンドン事務所長兼地球環境問題特別調査員。15年8月東京大学公共政策大学院教授、21年4月より東京大学公共政策大学院特任教授。21世紀政策研究所研究主幹、経済産業研究所(ERIA)コンサルティングフェロー、アジア太平洋研究所上席研究員、東アジアASEAN経済研究センター(ERIA)シニアポリシーフェロー。IPCC第6次評価報告書執筆者。帝人社外監査役。これまでCOPに16回参加。著書「私的京都議定書始末記」(14年10月国際環境経済研究所)、「地球温暖化交渉の真実―国益をかけた経済戦争―」(15年9月中央公論新社)「精神論抜きの地球温暖化対策-パリ協定とその後-」(16年10月エネルギーフォーラム社)、「トランプリスク-米国第一主義と地球温暖化-」(17年10月エネルギーフォーラム社)。「亡国の環境原理主義」(21年11月エネルギーフォーラム社)