毎年のように起こる極端な気候現象ですが、最近ではその頻度が高まっているような気がします。日本のみならず世界中で起こっている気候変動の原因と言われている地球温暖化を抑止するためにはどうしたらいいのか、また日常生活で気象情報の有効な活用により災害への備えにどのように取り組めばよいのか、蓬莱大介氏(気象予報士・防災士・健康気象アドバイザー)にお話を伺いました。
今年は過去151年で猛暑日が一度もなかった北海道函館市で初めて35℃以上を記録し、9月は126年の日本の近代気象観測史上で最も暑くなりました。この冬はどうなるのか、札幌管区気象台によると暖冬傾向になり、気温は平年並みから高くなる見通しだそうです。ただし、この夏高かった海水温が冬も平年に比べて高い状況が続くと、一時的に寒気が流れ込み雪雲が発達しやすくなって豪雪になるおそれもあります。海水温が高いとどうして豪雪になるのか —— 海水温と北から入ってくる冷たい空気の温度差が大きくなればなるほど、水蒸気が海から補給され、冷やされて水滴に姿を変え、もっと冷やされると雪の結晶になり、重たくなると雪になって落ちてくるからです。かつてと異なり、物流量が圧倒的に増えて冬用タイヤをつけていない車が大雪地帯に移動して立ち往生し、事故や大渋滞が発生するリスクが高まっています。ちなみに強い寒気がやってくるのは、北半球の偏西風が南に大きく蛇行することにより、北極圏の寒気が日本に入り込んでくるからです。
いくつかの悪条件が重なると異常気象が発生しますが、気象庁が定義している異常気象とは「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節)において30年に1回以下で発生する現象」で、ただし、こういった異常気象の頻度が多いのは何かがおかしいと皆さんも感じているのではないでしょうか。
今、地球規模で気候変動が起こっています。世界の平均気温は1850-2020年の間に1.09℃上昇し、この急激な気温上昇は、地質や木の年輪、古文書などを参考にコンピューターでシミュレーションした結果、少なくとも過去2000年の間に前例がありません。地球が誕生してから46億年の歴史の中で、今よりも温暖な時代も寒冷な時代もありました。しかし今、何が問題なのかというと、たった170年間で気温が1℃以上上昇していることです。たった1℃と思われるかもしれませんが、例えば、36.6℃の平熱の人が37.6℃になったら体に異変を感じませんか。今、地球にとって微熱状態が起きていると考えると、今後さらに地球の平均気温が上昇し高熱状態になったら、果たして私たちは生きていけるでしょうか? すでに海水温の急激な上昇により生き物の生息域が変わり、例えば北海道では昔は取れなかったブリがたくさん取れるようになった反面、函館の名物、イカの漁獲量が激減しています。
地球は太陽によって陸地や海が温められその余熱が空気を温めています。夜になると、その熱は宇宙にどんどん逃げていきますが、空気中のCO2などの温室効果ガスが熱を閉じ込めてくれています。もしこれが全く無かったら、地球は冷え切ってマイナス19℃くらいになってしまい、生き物が生きていけない環境になります。だから温室効果ガスはある程度必要なのです。しかし問題は急激な増加です。熱を閉じ込めすぎて、これが原因で世界各地で天気が急激に激しくなっているのではないかと言われているのが地球温暖化問題です。
人類は約50万年前に火を使い始めたことで文明が始まりました。約1万年前から200年前まではクジラや植物の油を燃やした火を使っていましたが、やがて地面に埋まっている化石燃料、石炭の方がより強い火力を得られることを知ります。これがきっかけで産業革命が起こり、さらに石油、天然ガスの使用により大量の電気をつくり、大きな機械や車、飛行機を動かしたり、あるいは石油を加工してプラスチック製品を作るなど私たちの生活はとても便利になりました。
化石燃料を燃やすと出てくるのがCO2です。植物の光合成ではCO2を吸収しO2を排出してくれますが、私たちが家や畑を作るために大規模な森林伐採を行い、また食べるために家畜をたくさん育て牛や豚のゲップ(メタンガス)によっても温室効果ガスが増加しています。産業革命後、気温の上昇とともに、空気中のCO2 の濃度も1.5倍に増えているという調査結果があります。
今地球の人口は80億人を突破し100年前には約25億人だったのに3倍以上に増加しています。そうなると化石燃料を使う人も増え、温室効果ガスの増加、気温上昇と因果関係があるのではないかと1990年代から科学者たちが研究していました。そして研究が積み重ねられ、現在は人間活動との因果関係は「疑う余地がない」とされています。
これまで地球の資源を使って発展してきた私たちの暮らしですが、21世紀は地球の資源を守りながら文明を発展させていけないかと考え、CO2排出に対しブレーキとなる緩和策に取り組むようになってきました。節電に協力したり、プラスチック製品の無駄遣いをしないことや、自然エネルギーの活用があります。だから太陽光や風力発電、昼間に蓄えたエネルギーを夜に使える蓄電器、水素自動車などが世界で急ピッチで開発・実装されています。しかしここで日本ならではの問題点があります。
日本は世界第3位の経済大国にもかかわらず、エネルギー資源がない国で、エネルギー自給率はわずか11.3%です。2010年には20%を上回っていたのに、11年に東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故があったため、他の原子力発電所を全て停止し、12年からしばらくエネルギー自給率は一桁台になってしまいました。化石燃料は国内ではほとんど採取できず、かといって再エネをどんどん進めたくても、地理的・気候的に無理があります。日本の国土は太陽光パネル設置のための平野が少なく、また雪や雨では発電しません。風力発電は、台風が多いために風車が破損するリスクがある、季節によって風向きが変わるので安定的ではありません。その上、日本の海の多くは遠浅ではないので、海上の設置地域が限られています。
国が掲げる2030年のエネルギーミックスの目標では、現在約70%を占める火力発電を約41%に減らし、再エネを現在の約20%から約36〜38%に増加。不足分は、停止している原子力発電を急ピッチで安全基準をクリアして現在の約7%未満から20〜22%に増加を考えています。原子力発電のメリットはCO2 を出さず地球環境に優しく、自給率の向上にもつながるからです。
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書」では、「人間の影響が空、海、陸地を温暖化させてきたことには『疑う余地がない』」と強く表現し、「原因は温室効果ガスの排出」と明言しています。そして「今から対策をとっても、今後、数十年は地球温暖化は進行し、さらに極端現象は、頻度・強度が増加するおそれがあるものの、その先の未来(2050年以降)は、今からの対策次第で変わる」とも述べられています。また日本の文部科学省と気象庁がまとめた「日本の気候変動2020」では、日本における雨の降り方について、「年間または季節ごとの降水量(合計量)には統計的に長期変化傾向は見られないが、短時間強雨は増える」と予測しています。雪については、「積雪は減るものの、ごく稀な大雪のリスクは変わらない」と言っています。台風については、「発生数や接近・上陸数の変化は見られないとしても、台風のエネルギーである大気中の水蒸気量が海水温の上昇により増加するため日本付近で勢力を落とさず近づくので台風の強度は強まるだろう」と考えています。
私たちは、温暖化に対する緩和策と同時に、これからしばらくは続くであろう気候変動に対する適応策も取らなければならないのです。そのためには天気予報をうまく活用して、災害が起きそうな時には事前に備えをする必要があります。1日3回、午前5時、11時、午後5時に情報が更新される天気予報をまずチェックしてください。雨について「1時間に50mm(ミリメートル)」と言ったら、外が真っ白になり道路が冠水するほどの非常に激しい雨で、さらに「24時間に200mm」だと、土砂災害が発生する目安ですから覚えておいてください。日本では全国の1時間降水量50mm以上の年間発生回数は40年前に比べ約1.5倍に増え、1時間降水量200mm以上の年間発生回数はなんと約1.7倍にも増加しています。特に、記録的な大雨が同じところで長時間持続する線状降水帯は、河川の氾濫や崖崩れなど災害を引き起こす原因となります。
また台風は時計と反対回りなので、北海道の場合は、台風が温帯低気圧になった後も北から強い風が吹くので気をつけてください。2016年、海水温がとても高かった年には北海道に5度も台風が来たことがありました。堤防が決壊し、市街地まで広く浸水しましたが、まさかあの川が氾濫するとは思わなかったという現地の人の声を聞いています。災害は他人事ではなく、起きたらどうするかという意識を常に持って災害の備えをしてほしいのです。
各市町村ごとに過去の災害を参考にして、大雨、洪水、大雪など注意報16種類、警報7種類が設定されていますが、災害に関しては、注意報、警報、土砂災害警戒情報、特別警報の4段階があります。大荒れの天気の時は、例えば車で無理してアンダーパスを通り抜けるなど、いちかばちかの行動はしないようにしてください。警報が出た段階ですぐに災害モードに頭を切り替えましょう。災害時には自分だけは大丈夫などという思い込みをしがちですが、大きな災害になればなるほど救助や救援をすぐに期待できないことも心しておきましょう。
普段からスマホやパソコンで雨雲レーダーなどをチェックしておき、地域の防災ハザードマップで詳しいエリアごとの土砂災害、浸水害、河川氾濫の危険度を確認しておくことも有効です。また防災を行動に移すには 自分のためではなく、愛する家族や身内を守るためと考えれば、防災グッズを常に身の回りに置いておくことも大切です。そして気候変動のニュースに関心を持ち地球温暖化への緩和策と、天気予報を味方に激甚化する気候への適応策を続けてほしいと願っています。
気象予報士・防災士・健康気象アドバイザー
1982年兵庫県明石市生まれ。2006年早稲田大学政治経済学部卒業。09年第32回気象予報士試験に合格。10年より当時読売テレビで気象キャスターをしていた小谷純久(よしひさ)氏に師事し、11年より読売テレビ気象キャスターに就任。担当番組「かんさい情報ネットten.」「情報ライブミヤネ屋(全国ネット)」「ウェークアップ!(全国ネット)」「そこまで言って委員会」など。あすの天気をイラストで伝える「スケッチ予報」や司会者との掛け合いで幅広い層から支持を得ている。書籍「空がおしえてくれること(幻冬舎)」、読売新聞コラム「空を見上げて」。2023年イラストカレンダー、グッズなども販売中。