アメリカで生まれ育ち、長年、日本で生活し活躍していらっしゃるケント・ギルバート氏(カリフォルニア州弁護士)。様々な分野に関心を持つ中で、世界情勢の影響を受けやすい日本のエネルギーについて、どのように考えていらっしゃるのか、お話を伺いました。
私はアメリカ・ユタ州の高校生の時に、夕方のテレビのニュースで、これからはエネルギーが大きな課題になると言っていたのを覚えています。ちょうど運転免許証を取ったばかりでガソリンスタンドで初めてガソリンを入れてもらいましたが、今と比較にならないほど安価でしたし、電気もガスも問題なく使えるし、その当時、エネルギー問題が今のように世界情勢を左右するとは想像もできなかったのです。高校を卒業したのが1970年、我が家に冷蔵庫や洗濯機はもちろんありましたが、しかし現在、よく売れている電化製品で当時あったものは数少ないです。半世紀が過ぎて、東京の我が家の電化製品を全て数えてみたところ、30個近くあり、電気をこんなにも使うようになったのかと改めて驚いています。
今の日本のエネルギーについて、4つの項目=安定供給、経済性、環境、安全性で読み解くことができます。1つ目の安定供給については、日本は国内資源でエネルギーをどのくらい自給できているかといえば、自給率は11.3%と低く世界で37位。資源がない国ですから、水力を除く再エネ、水力、そして原子力が自給率を支えています。日本は食料自給率も40%未満であり、かなりリスクが高いと思います。日本の国土面積と地勢から考えると、適切な人口は3,000万人と言われています。しかしこれは江戸時代にすでに達している人口で、今はその4倍もの人口のための食料とエネルギーが消費されているのです。
2つ目の経済性については、家庭用電気料金について諸外国と比較すると、アメリカは本体価格も安い上に税金もかかりません。イギリスは日本とほぼ同じで、本体価格が安いドイツでは、原子力利用をやめて再エネで発電するために税金が高く徴収されています。高い産業用電気料金に関しては、日本の経済力が国際的水準を維持できるかどうか問題視されています。そして日本の電気料金が高くなった原因は、福島第一原子力発電所の事故後、原子力利用ができなくなり、再稼働が進まないところにあります。
3つ目の環境について、世界の潮流であるカーボンニュートラルを目指す中で、温室効果ガスの排出量は2013年度に1,410百万tだったのが、20年度には1,150百万tというようにかなり減らし、中でも84%を占めるエネルギー起源のCO2排出量の減少は成果を挙げています。
4つ目の安全性については、年々激しくなる自然災害に対し安定供給と安全性を確保するために、電力インフラの強靭化や安全性を高めた新規制基準への対応の取り組みがあります。特に福島第一原子力発電所の事故以降、従来より規制基準を増やし厳格にしています。私はここ3年くらい、かつて稼働していて現在停止している各地の原子力発電所を視察し、巨額をかけて整備している現場を見てきましたが、規制基準の厳格化に伴い、工事の追加などによりなかなか再稼働まで進めない状況を残念に思っています。
日本のエネルギー政策の基本はエネルギーの方向性をS+3Eの観点で考えエネルギーミックスを提唱しています。S=安全性 Safetyは当然のことで、安定供給 Energy Security(自給率)は東日本大震災前(約20%)をさらに上回る30%程度を2030年度に見込み(20年度は11.3%)、 経済効率性 Economic Efficiency(電力コスト)は13年度の9.7兆円を下回り30年度には8.6~8.8兆円を見込みつつ、環境適合 Environment(温室効果ガス排出量)においても50年カーボンニュートラルを見据えて30年度に13年度比マイナス46%と考えています。しかし原子力発電所の稼働が進まない現在、50年前のオイルショックの時以上に、化石燃料による火力発電依存率が高くなっています。
これからの日本のエネルギーを救うのは何でしょうか。まずこれまでも産業部門でエネルギーコストを下げてきたイノベーションがあります。脱炭素化のためには、次世代エネルギーとして注目される水素の活用がありますが、すでに水素ステーションはあるものの、まだ十分に利用されているとは思えません。また燃料としてはアンモニアも注目されています。そしてCO2そのものを削減する技術の開発や、「カーボンリサイクル」の開発と実装もあります。そしてCO2そのものを削減する技術の開発、炭素化合物として再利用(リサイクル)する仕組みですが、実際にアメリカで巨額をかけてリサイクル施設を作ったものの、運用コストがかかりすぎるため利用されていないといった問題もあり、コストを低減し実用化するまでには時間がかかると思います。
では再生エネルギー導入について、日本ではどの程度進んでいるのでしょうか。主要国の発電電力量に占める再エネ比率ではドイツが最も高く、日本は19.8%と9位ですが、太陽光発電の導入容量に関しては、中国、アメリカに次いで世界第3位になっています。しかし再エネは自然任せのエネルギーで、太陽が出なければ太陽光発電はできないし、風が吹かなければ風力発電はできません。したがって蓄電システムの導入促進が伴わなければ、再エネだけでエネルギーを補うことはできないのです。アメリカ・テキサス州では風力発電供給を拡大してきたものの、2021年2月に猛烈な寒波の影響で、風力発電所のタービンが凍結し大停電になった実例もあります。火山が多い国日本では高温な地熱エネルギーを取り出せると思われますが、開発に際して温泉の温度が下がるリスクがあると温泉街から反対の声も上がっていると聞いています。
資源の乏しい日本で再エネに頼れないとしたら、S+3Eを実現するためにどうしたらいいでしょうか。選択の一つとしてやはり原子力発電があり、私は、安全性を最優先に新規制基準に適合させて、再稼働を進めることが正しい道だと思います。アメリカ・ジョージア州では、今年7月、原子力発電所を新設し商用運転を開始しました。1979年に起こったスリーマイル島原発事故以降、新規建設がずっと滞っていましたが、40年以上経過し、政府、企業、エネルギー会社は、カーボンニュートラルを目指し、かつ経済的にも最適な手段として原子力発電を選択しました。国民もスリーマイル島原発事故後には反対していましたが、原発増設を支持する層が年々増加し、今や57%になっています。一方、昨年アメリカの大学で核融合実験によりエネルギーを純増させることに成功し、核融合は次世代エネルギー源として注目されていますが、実用化までは相当長い道のりだと思います。
日本政府が掲げているエネルギーミックス目標において、「徹底した省エネ」も条件になっているのをご存知でしょうか。 2013―20年までを見てもすでに産業界における省エネが最も大きな効果を挙げており、最終エネルギー需要を減らしてきましたが、2030年には最終エネルギー需要を減らすために、さらに徹底した省エネが条件になっています。省エネというと、どうしても節約、我慢、ダサい、暗いというイメージがありませんか。でも私は省エネとは電力会社との勝負だと思っています。こう考えてみてください。私たちはある程度の豊かさを確保するために、自分のライフスタイルに合わせて電気を使います。もし仮にいきなり豊かさを減らすとしたら、我慢になってしまいますが、我慢は短期的にはできるけど、長くは続きません。今使っている電化製品がなかった時代に戻りたいとは思いませんよね。でも、外出時に電気をつけっぱなしにするのは無駄に電気を使うことになります。電気を無駄遣いしても豊かにはなりません。だから今と同じ豊かさを維持しながら、工夫することによって使用量を減らす、それが省エネです。消費量を減らしても豊かさを残す工夫として、皆さんのご家庭で例えば10年前の冷蔵庫を使っているなら今の冷蔵庫の方がエネルギー効率が断然いいので、買い換えで電力消費が減り、電気代が安くなります。手軽なところでは全てLED電球に買い換えるなどもあります。つまり、省エネとはエネルギーを使わないことではなく、エネルギーを上手に使うことなのです。
日本のエネルギーを考える時、ETTの神津代表が教えてくれた、「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」という寺田寅彦の言葉を思い出します。原子力発電に対して、反射的に危ないと言っている人は、正しい情報を持っていないからです。私たちにできることは、正しい情報を得て、それに基づいて行動することだと私は思います。
カリフォルニア州弁護士
1952年、アイダホ州に生まれ、ユタ州で育つ。70年、ブリガムヤング大学に入学。翌71年に初来日し、九州を中心に約2年居住。75年には沖縄国際海洋博覧会の職員として沖縄県に約半年居住。同大大学院に進学して、経営学修士号(MBA)と法務博士号(JD)を取得。カリフォルニア州弁護士資格を取得後、国際法律事務所に就職。法律コンサルタントとして80年から東京在住。83年からテレビに出演して人気タレントへ。現在は講演や執筆活動を中心に、多忙な日々を送る。著書に『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(PHP研究所)、『米国人弁護士だから見抜けた日本国憲法の正体』(角川新書)、櫻井よしこ氏と共著『わが国に迫る地政学的危機 憲法を今すぐ改正せよ』(ビジネス社)、田原総一朗氏との対談『激論 アメリカは日本をどこまで本気で守るのか?』(ビジネス社)、『日本が消失する 国民の9割が気づいていない、一瞬で壊れる平和』(幻冬社)など。