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中部エナジー探検隊

《日 時》
2024年6月1日(土)13:05〜14:25
《会 場》
電気文化会館5階イベントホール(愛知県名古屋市中区栄2丁目2−5)
《テーマ》
くらしの変化とエネルギー

地球温暖化が原因といわれる異常気象、身近では能登半島地震、予期せぬ軍事侵攻・紛争もあり、他国に資源を依存する日本はエネルギー危機が懸念されています。また、コロナ禍を経て私たちの暮らしは大きく様変わりしています。変化する暮らしに私たちはどう対応すればよいのか、神津カンナ氏(ETT代表)による講演と、講演を受けて水尾衣里氏(名城大学人間学部教授/工学博士)とのトークタイム・質疑応答が行われました。

講演
くらしの変化とエネルギー

化石燃料に頼っている現実はずっと変わっていない

約2年前に中部エナジー探検隊の講演会でお話しする予定だったのですが、その2日前に病に倒れ、やむなくキャンセルさせていただきました。本日は復帰後初めての講演会となりますので、ここしばらくで私の身の回りに起こったことと、エネルギーの変化についてお話しできればと思います。

1973年の第一次石油ショック時、エネルギーの約7割を石油に頼ってダメージを受けた日本はLNGなどを開発し、約20年かけ1991年湾岸戦争時には石炭・石油・LNG・原子力・水力・再エネなどをバランスよく使う「エネルギーのベストミックス」を実現しました。ところが2011年3月11日、東日本大震災が起き、東京電力福島第一原子力発電所の事故がありました。その頃の日本のエネルギーは約3割を原子力に頼り、54基が稼働していましたが、震災の翌年には脱原子力でゼロになりました。同年12月、自民党に政権交代してからは少しずつ動き始め、2022年には10基が再稼働し、今に至ります。一方、火力は震災前(2011年2月)に約6割を占めていましたが、震災後(2012年11月)は原子力がなくなったぶん、約9割まで増えました。何かが起きるとエネルギー供給構成も変わることを実は日本は何回も体験してきたのです。


エネルギーはオートクチュールである

震災からすでに13年3カ月経ちましたが、この間、SDGsの話題、温暖化を食い止める動き、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、物価高などいろいろな変化がありました。ここからはこの3年に私の身の回りに起こったことをお話しします。詳細は省きますが、2021年4月に私の事務所の社長が救急搬送され、闘病の末、2022年8月17日に亡くなるまでの約1年4カ月は私にとって筆舌に尽くしがたい時間でした。そしてお通夜の準備をしていた18日に今度は私が倒れ、20日の中部エナジー探検隊の講演を中止し、11月に手術をしました。その後、そろそろ復帰を考えていた矢先の2023年12月31日、母・中村メイコが亡くなったのです。この間、何度も頭に死がよぎり、暗い3年2カ月を過ごしてきたわけですが、この間に気づいたことがあります。

まず病はオートクチュールである、ということ。 同じ病気でも、一人ひとり全く異なるものだと強く感じました。職業・好み・家族構成・経済状況など、同じはあり得ないからです。例えば声を職業にしている人のなかには、同じ治療でも、できる限り声に支障が出ない治療を選択する人もいるかもしれません。

次に、私流のやり方を見つけること。 例えば入院中なら栄養が足りないと点滴で補給できますが、家庭に戻ると野に放たれた動物と同じで、どうにかして自分で口から食べなければいけません。何をどうやって、何回食べるか。試行錯誤や失敗を繰り返しながら私流の、私の最適なやり方を見つけるしかないということに気がつきました。

キーパーソンを見つける。 全部一人で抱え込むのは大変です。家族や友人など誰か信頼できる人を見つけて病と闘う姿勢が大切だと思いました。あと、これが最も難しいのですが、病院の副院長に、俯瞰して「いま」を見ることを勧められました。病気は自分ごとですが、俯瞰することによって見えるものが違ってくるからです。

何が起こるかわからないと自覚すること。 人間は死ぬことは決まっていますが、それがいつかはわかりません。「ちょっと待って」が通じないことを私は体験しました。だからこそ、絶えず危機感を持って、私は生きている間に何をすべきか? 幸せなのか? 豊かになったのか?ということを自分に問い続け、答えを得られるような生き方をしなければならないと思っています。

そして以上の同じことはエネルギーにも言えると気づきました。

エネルギーはオートクチュールである エネルギーは政治・経済・気候風土などに左右され、国によって同じにはなりません。「ドイツでできたなら日本でもできるはず」などと思いがちですが、自分の国の土台をよく見ることが大切です。

その国流のやり方を見つける 「日本の一次エネルギー供給構成の推移」のグラフで化石燃料依存度を見ると、約50年前の1973年度:94.0%からオイルショックを経て、ベストミックスを実現したことで2010年度:81.2.%に下がりましたが、それでも80%を超えています。その後、2011年の東日本大震災後に2017年度:87.4%と再び増えてしまいました。つまり私たちが「化石燃料に頼っている現実」はずっと変わっていないのです。原子力の再稼働や再エネの増加がクローズアップされますが、その裏に隠れている化石燃料をどうやって使うか、できるだけCO2を抑制する「化石燃料の使い方」を私たちはもっと考えていかなければならないと思います。その国流のやり方という点で、日本は原子力も再エネも蓄電池も、もう少し頑張らないといけない。けれどもいつか使わなくなるにしても化石燃料が約50年前から減っていないことを見ると、今日明日に変われるわけがなく時間がかかり、ここ何十年かはまだ化石燃料に頼らざるをえないからです。


■ 日本の一次エネルギー供給校正の推移 図 

何が起こるかわからない 何かが起きることによってエネルギーの状況が変わっていくこと自体は仕方ないと思いますが、それで人間は幸せなのか? 暮らしは楽になるのか?ということをいつも問いかけていかないといけないと思っています。


対談
きれいごとの背景にあるマイナス面まで考える 

きれいごとの背景にあるマイナス面まで考える 

水尾 この3年、神津代表の復帰をお待ちしていました! この間に私たちはコロナ禍を経験し、暮らしの変化がありました。企業ではテレワークが普及し、名城大学でもサーバーを増やして全学生がパソコンを使ってリモートで授業を再開しました。パンデミックも技術によって乗り越えられる素晴らしさを感じましたが、ものすごく電力を必要とする生活になったということですよね。

神津 いろいろな理事会でリモートになったら参加者が増えて、出席率が上がったのはいいことだと思いましたよ。

水尾 俯瞰して見ると、人類は悲劇的なことも踏み台として次の文化を築き、成長してきました。14世紀にペスト流行をきっかけに印刷技術が発達してルネサンス文化が花開いた歴史と、今回のコロナ禍は近いものがあります。ただ、コロナワクチンはエネルギー同様に外国頼みで、日本でなぜできないのか、これは日本の「負け」だと悔しく思っていました。我が国は科学技術立国であるのに、アメリカのようにワクチンの研究開発に対して常時多額の予算をつけてきたわけでなく、今回のパンデミックについても外国頼みでした。

神津 では、日本が「勝つ」ためにはどうしたらよいのでしょうか?

水尾 政府が勇気を持って政策を出し、丁寧に上手に説明をすれば国民も聞く耳を持つのではないかと思うのですが…。

神津 日本は「自然エネルギーで豊かな暮らし」など、とかくきれいごとを聞くのが好きですよね。実は良いことには漏れなく悪いことも付いてくるといった、プラスだけでなくマイナスもきちんと話すことが少し欠けている感じがします。

水尾 そうですね。あと暮らしの変化といえば、ChatGPT(会話型AIサービス)や生成AI(AIを使って新しいデータを生成する技術)の普及が挙げられますが、これらがものすごく電力を食うことを皆さんはご存知ですか? スタンフォード大学の先生が計算した論文によると、生成AIの大規模言語モデルが言語を習得する際に排出するCO2量は25トン(平均的なアメリカ人が1年に排出するCO2量の1.4倍)、消費電力量は433MWh(平均的なアメリカ人の消費電力量の41年分)にもなります。生成AIも電気自動車も推奨されていますが、そのために化石燃料を外国からいつまでも買ってきてよいのか、今止まっている原子力発電を動かしてもよいのではないかなど、先程神津代表が言われたように、便利で豊かな生活をするのであれば、その背景まで考えるのが私たちの責任ではないでしょうか。

神津 病院ではICUで24時間電気が煌々としていて驚きましたし、何もかもがコンピュータ制御され電気を大量に使っていることを実感しました。もちろんありがたいことだと思いましたが、同時にもし電気がなかったら私は生きられない、人間の暮らしは電気に支えられているんだとつくづく感じました。

水尾 今は原子力発電が少ししか動いていないので、私たちの生活を支えているエネルギーのほとんどを外国から買ってきているわけですが、ロシアによるウクライナ侵攻や最近の円安で価格が高騰し、死活問題となっています。本当にこれでいいのか、恐れず議論する雰囲気づくりをしていかないといけないと思いますね。




質疑応答

Q:化石燃料を工夫して使うのは非常に難しい技術なので無理なのではないか。化石燃料は使わないとハッキリ決めたほうがよいのでは?
A
:確かに化石燃料は使わないほうがよいに決まっているが、歴史的に見ると減っていない。再エネのバックアップにも化石燃料が必要で、蓄電池の開発には時間がかかる。そして世界では化石燃料を使っている国がまだたくさんある。化石燃料をどうしても使わなければならないのなら、どういう技術や知恵によってCO2を制御していくか、例えば100年のスパンで見るとこれから30年ぐらいは「化石燃料の使い方」を考える時期にさしかかっていると思う。またここ数年、電力会社の努力により、石炭火力発電から出るCO2は激減して効果も出ている。そういった技術革新も、使い方の工夫の手段になる気がする。

Q:COP28で日本は再エネを3倍、省エネ改善率を2倍にすることを国際合意したので、これを基礎に努力していくことが大事なのではないか?
A
:COP28の合意事項はもちろん大切だが、絵に描いた餅ではなく、実際に食べられる餅を描かなければいけないとも思う。太陽光発電はパネル製造に大量のCO2を排出する。稼働率も約2割しかなく、その下支えに今は火力発電、化石燃料に頼っているという現実まで考える必要がある。ただ化石燃料を燃やしてエネルギーをつくるだけではなく、CCS技術も、石炭から水素をつくる技術にしても化石燃料の新たな使い方だ。そういう現実を忘れずに、日本が必死になることこそ大切なことだろう。


水尾衣里(みずお えり)氏プロフィール

名城大学人間学部教授/工学博士
国土交通省をはじめ愛知県など数多くの行政機関各種団体の委員などを歴任。専門は建築学・都市計画学。

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